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洋々LABO > インタビュー > 大学インタビュー > 「学生はなぜ、学ぶべきか?」―APUの出口学長が語る、学びの姿勢とは

国際学生比率50%、外国人教員比率50%、出身国数50カ国以上――「3つの50」を掲げて2000年に開学した立命館アジア太平洋大学(通称、APU)は、今や在学生の2人に1人が外国人という、高度なグローバル環境を実現しています。

開学前は各方面から「実現は不可能」と考えられていた「3つの50」。しかしAPUは開学当初からこの環境を達成し、今もなお世界中からハイレベルな留学生が集まります。このようなユニークな環境を今後APUのさらなる発展を図る出口治明学長に、日本の教育を軸としお話を伺いました。

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出口治明氏
1948年生まれ、京都大学法学部卒。新卒で日本生命保険相互会社に入社した後、東京大学総長室アドバイザーや早稲田大学大学院の非常勤講師などを務め、2008年にライフネット生命保険株式会社を開業。2012年に上場。2018年より、立命館アジア太平洋大学学長に就任。

これからの大学は「東大かAPUか」

――入試の変革は2020年の教育改革の一部に過ぎず、そもそもの教育の在り方や学力の定義自体が見直されようとしています。このような状況のなかで、出口学長は「学力」をどう考えますか?

「今年の3月、『THE世界大学ランキング 日本版2018(*1)』でAPUは全国の私立大学の中では5位、西日本では1位をいただきました。もっと質の高い大学を目指すために、もっと優秀な学生を集めていくつもりなので、APU志願者には必然的にハイレベルな学力が求められます。

しかし、学力というものは2パターンに分けられると僕は考えています。

ひとつは、限られた時間内に難しい問題を解く能力。処理能力や記憶力、判断力、スピード感のある思考力などがこれにあたります。これらはもちろん非常に大切な能力ですし、APUでもこの競争に勝った学生たちが一般で入学してきます。いわゆる偏差値重視の学校教育における『優秀層』とは、こうした能力が秀でている学生のこと。東大や京大を目指すのは彼らです。

一方で、偏差値重視の教育に馴染めないタイプの学生も、もちろん大勢いますよね。時間をかけて難しい問題に取り組み、自分の力で答えを導き出すことに意義を感じる。そのような人たちこそ『APU型』に向いている、と思います。

日本の教育は富士山型なので、東大や京大がトップにあって、その下にたとえば慶應や早稲田、その下に……というように捉えられてきました。しかしそうではなく、東大という山もあればAPUという山もある。つまり『八ヶ岳型』で考えるべきです。全く違う多様な価値観で経営している多様な大学があって、そのどれを選んでもいいということを、学生や保護者の皆様に知っていただけたらなと思います。これからの大学選びを『東大かAPUか』で考えるよう、引き続き注力していきます」

(*1) 参考元 https://www.apu.ac.jp/home/news/article/?storyid=2962

「試験一発勝負」のフェアネス――AO入試は補完的制度

――昨今、AO入試が話題に上ることも増え、入試の在り方が大きく見直されつつあるように思います。出口学長は日本の入試制度をどのように捉えていますか?

「APUではAO入試を数種類実施していますし、他大学でもAOを導入している大学の数はかなりのもの。しかし僕は基本的に、あくまでもセンター試験が基軸にあるべきと考えています。AOはさまざまな学生を拾い上げるポテンシャルがあるけれども、入試の主流にはなりえない。

センター試験や、あるいは先進国で実施されているバカロレア。これらの入試の優れているところは、大学に入る機会が誰にでも均等に与えられる点です。大学入試の合否が高校の成績や生活態度などで決まるのであれば、変な話、3年間先生にゴマをすればいい。けれども、個々人の事情や学校、先生との相性の良し悪しは誰にでもありますしよね。第一、ボランティアや課外活動はAO入試のためになされるべきじゃない。

その点、センター試験一発勝負であれば、自分を試験当日までにどこまで高められるかがすべて。センターの試験問題そのものについては再考の余地がありますが、制度としては非常にフェアです。AO入試や推薦入試は、あくまでもセンター試験で取りきれない学生を掬う補完的な制度であるべきであって、基軸となるセンター試験とのセットで実施するべきだと思います」

大学への投資、勉強、多様性の確保が、国力を押し上げる

――APUは、世界中から学生を集めているとうかがっています。質の高い教育を提供し、世界中から「選ばれる大学」になるために重要なことは何なのでしょうか?

「それは非常にシンプルで、一言で言えばずばり『投資』です。そういった意味で、現在の日本の教育に対する姿勢は、構造的に大きな問題を抱えていると思います。

少し話が変わりますが、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)の結果を見ると、15歳の日本人が持つ学力は、G7の中で最も優秀(*2)です。これは、日本の基礎教育に携わる先生方が皆非常に熱心だからだと思います。実際、OECD加盟国の平均と比べても、先生方の労働時間は平均より200時間ほど多い(*3)。申し訳ない気持ちです。基礎教育で主におこなわれる文章の読解や四則演算は、板書で一対多数の授業であっても、先生方が熱心であれば、基本的には対応できているのでしょう。

一方で、高等教育は、ひとりひとりの個性に合わせた教育をおこなう必要があります。ST比(Student Teacher比。先生一人あたりに対する生徒の数)を改善してきめ細かい教育を実現するには、国が教育に対してもっと予算をつけなくてはなりません。しかし、日本はOECD加盟国のなかでも教育費は最低ランク(*3)。特に幼児教育と高等教育にお金をかけられていないのが現状です。

これまでは政府は『少負担中給付』で国の財政をまかなってきましたが、それが限界を迎えつつある今、われわれは『中負担中給付』か『大負担大給付』を選ばなくてはならない。投資をするのであれば、幼児期の教育への投資が最も大きなリターンを得られることが、他国のこれまでの事例や研究から既にわかっています。まずは、我が国で『7人に1人』と言われている子どもの貧困を解消すること。その次は、高等教育機関である大学に投資することです」

――特に高等教育への投資に関しては、日本の将来そのものと密接に関係しているように感じます。

「まさにその通りです。大学への投資は、国力の向上に直結すると感じています。

今の日本は、残念ながら国力が衰退に向かっているのではないかという気がしてなりません。購買力平価で見たGDPの世界シェアはピーク時の9%弱から今や4%強に半減。平成30年の世界トップ企業20社ランキングを見ると、このなかに日本企業はなく、35位にやっとトヨタが出てきます。トップ5はGAFAとマイクロソフトで、その下にはアメリカや中国のユニコーン型企業が続きます。平成元年の同ランキングでは20社中14社を日本企業が占め、トップはNTTでした。(*4)

GAFAは、98年に設立されたGoogleを筆頭に、すべてが新しい企業。よく言われていることですが、ここ20年の間に、日本はGAFAやユニコーン型企業を生み出せなかったということが衰退の原因として考えられます。GAFAやユニコーン型企業の特徴は、働く人々がとても高学歴であるということです。経営者は修士号以上を取得している場合がほとんどで、働く人も皆、大学卒か院卒。

一方、日本の強みとされている製造業では、働く人の大卒の割合はおよそ4割。この事実と、日本の大学進学率が、OECDの平均を下回る52%であるという事実はぴったり一致します。つまり、GAFAやユニコーン型企業を生み出そうと思ったら、社会全体を高学歴にする必要があるのです。

また、国力を高める上でもうひとつ欠かせないのが『多様性』です。今世界を牽引している新しい企業群は、シリコンバレーのような多様性のある環境の中から生まれました。日本は島国であることもあり、構造的に多様性が生じづらい。さらに、産業界が新卒の学生を採用する際に素直さや協調性などを重視して成績を殆ど見ないせいで、ユニークな個性が育ちづらい環境を作ってしまっていると感じます。

まずは学生がきちんと勉強する。そして多様性を確保し、成長産業を新たに作る。勉強と多様性がこれからの日本には非常に大切です。そのためにもAPUはできるだけ多くの国から学生を集め、文字通り『若者の国連』となるような環境を目指しています。今は90カ国なので、国連に比べればまだ道半ばといったところですね(笑)」

(*2)参考元 http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2015/03_result.pdf
(*3)参考元 http://www.oecd.org/education/skills-beyond-school/EAG2017CN-Japan-Japanese.pdf
(*4)参考元 https://diamond.jp/articles/-/177641?page=2

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洋々の小論文トレーナー兼メンター。編集と執筆もしています。かぼちゃと春と動物が好き。