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洋々LABO > 洋々コラム > ホリエッティの「三大陸周遊記」<死語の世界>その4

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15)ヘブル語:私の経験から、セム語族の先生は體育会系とでも言うか、総じて容赦ない。西洋精神史はヘレニズムとヘブライズムの織り成しが骨格を据えるから、洋魂をわがものにするには、ヘブル語の習得は必須であった。

笈川博一先生の授業はすさまじかった。旧約聖書「創世記」の冒頭箇所のレニングラード版テキストを有無を言わさず、まず配られた。「じゃあ、これから文字を教えて、文法はそのたびに説明するから、読んでいくぞー」と言って、初回の授業30分後から原典講読へと突入したのだ。泳ぎを教える前に、まずプールに投げ込むとはこのことである。

次の授業には、もう辞書で単語を引いて意味をとって来なければなければならなかった。古典の徒には諒解済みだが、だいたい現代語訳なんてものは役に立たない。だからこそ、原文に当たっているわけなのだ。その年度は「創世記」を続けたが、「ヨシュア記」「列王記」「歴代誌」並行箇所など数年かけて読んでいただいた。
 
16)ウガリット語:民族考古学科の「ウガリット語の世界的権威だから、慶應ごときにいらしてくださらないのではないか」との懸念をよそに、津村俊夫先生が飄々と現れた。聖書学を遂行するには、へブル語、アラム語、シリア語、アッカド語と並んで、ウガリット語が必修語学群である。

ウガリットは北西シリアの20世紀に発掘された都市で、後日、私も興味津々で2009年10月現地を訪れたが、おもに紀元前16~13世紀の楔形文字が刻された粘土板が多数出土した。その神話・物語群は旧約聖書の内容や文体と目ざましい共通性を示すことから、聖書研究に変革をもたらした。

17)アラム語:津村先生と知己を得た私は、民族考古学専攻とはもはや関係なく、哲学専攻の専門科目として、アラム語を教えていただくことにした。ナザレのイエスが話した言語である。ほぼ死語ではあるものの、今日でもシリアのマアルーラ村の修道院では、アラム語の典礼を聞かせてもらった。ヘブル語より広範囲でリンガ・フランカとして用いられたのだ。「リンガ・フランカ」とは「共通語」の謂いで、古代からアッカド語→アラム語→ギリシア語→ラテン語→(フランス語)→英語と変遷していると言ってよいだろう。

3年目から6年目には、津村先生に、ヘブル語で「雅歌」(愛の賛歌?)全体を読んでいただけた。私にとって貴重な財産である。一年前に出た「新改訳聖書新版」の旧約部門は、津村先生の目が行き届いているので、信用できるだろう。翻訳は原典を凌駕することはないのだが、複数翻訳が存在する場合、どれが原典に最も忠実かを知っていることが、学問の第一歩となる。

18) シリア語:聖書学に必要な次なる言語シリア語のためには、ドイツで学位を取った日本の第一人者、高橋英海さんに講師で来ていただいた。当時、中央大学に属していたが、いまは駒場の東大教授である。

2年間異なる入門書で文法を習う傍ら、講読は砂漠の修道士エヴァグリオスの難解な『グノーシス的諸章』に参加者全員でアタックした。上述の笈川教授に、トマス・アクィナス研究者で現・東大教授の山本芳久君、上智の先生と私のなかに、正規の学生が2人加わって、という、なんともいびつなメンバーとなってしまった。19世紀末のペイン・スミス『シリア語・ラテン語辞典』が最良の語彙集だったので、そもそもラテン語ができない人は、参入を阻まれるという実情だったのだ。

シリア語は聖書学にとってだけでなく、哲学の伝播を辿るうえでも重要な踏み石である。例えばアリストテレス哲学は、ギリシア語からシリア語に訳されたものが、9世紀あたりにシリア語からアラビア語に訳され、さらに12世紀にスペインのトレドを中心にラテン語に訳され、ヨーロッパに戻って来る。回遊魚のように媒介言語を換えつつ、地中海を時計回りに一周するのである。

19) アッカド語:さて、聖書学に必要な最後の砦、アッカド語には、言語文化研究所の新設科目で触れることとなった。講師の高井啓介さん(現・関東学院大学准教授)は、初回20人もこのマイナー言語に押し寄せたので、嬉しい悲鳴を隠さなかった。そこで張り切ってしまい、文法解説に先立って前回の単語小テストなんてものを、古典語にも拘らず毎回敢行した。毎週50語くらいはあったろうか。毎週単語集をテストされる高校生の気持ちを、ここで私も味わった。ただ、一年間全小テストをノーミスで通した事実は、高校生にちょっと自慢しても許されるのではないか。

アッカド語は場所によってはアッシリア語、バビロニア語とも言われ、紀元前3000年からの長い歴史を持ち、粘土板に楔形文字で刻まれている。「眼には眼を、歯には歯を」で有名な紀元前18世紀の「ハンムラピ法典」(ルーヴル美術館蔵)はアッカド語で書かれている。これを念頭にイエスは同害報復を禁じ、「右の頬を打つ者には左の頬をも向けよ、下着を取ろうとする者には上着をも与えよ」(「マタイ伝」5:38-40)と新たな道徳を宣教したのである。

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