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洋々LABO > インタビュー > コラム > ホリエッティの「三大陸周遊記」 神秘のメッカ

「オタクのメッカはアキバである」「スキーのメッカ蔵王」という言い方をしたと思うが、日本語で「聖地として一度は訪れるべき中心地」という意味の「メッカ」は、もはや死語であろうか。高校の歴史の教科書は次第に原語の発音に忠実にする趨勢にあり、「メッカ」は「マッカ」に、「モハメッド」は「ムハンマド」に、「コーラン」は「クルアーン」になりつつある。すると、「ブロードウェイはミュージカルのマッカである」になるであろうか。いや、なりそうもない。
ムハンマドは孤独を愛し、メッカ郊外のヒラー山の洞窟で瞑想に耽る日々を送っていると、610年、40歳の或る日突然、唯一神アッラーからの啓示を受ける。メッセンジャーの天使ガブリエル(アラビア語で「ジブリール」)が現れ、ムハンマドを強く3回羽交い締めにし、啓示を復唱するよう命令した。
最初の啓示は次のものであったという。

「誦め、「創造主なる主の御名において。いとも小さき凝血から人間をば創りなし給う。」誦め、「汝の主はこよなく有難いお方。筆もつすべを教え給う。人間に未知なることを教え給う」と。」(『コーラン』96章1-5節)
(井筒俊彦訳岩波文庫、以下の引用も同様)

 
以後、断続的に23年間続いた啓示の記録が、全114章からなる『コーラン』という聖典になる。ムハンマドは622年メッカからメディナに移住する。したがって、啓示はメッカ期に下された「メッカ啓示」と、メディナ遷都後下された「メディナ啓示」に分類されることになる。啓示の配列は、下された時間順ではない。むしろ、最初のメッカ啓示の方が、後ろに組み込まれる傾向にある。私の好きな章をいくつか紹介してみよう。いずれもメッカ啓示である。

113章「黎明」――メッカ啓示――
「慈悲ふかく慈愛あまねきアッラーの御名において・・・
言え、「お縋り申す、黎明の主に、その創り給える悪を逃れて、
深々と更けわたる夜の闇の悪を逃れて。結び目に息吹きかける老婆らの悪を逃れて、妬み男の妬み心の悪を逃れて。」

114章「人間」――メッカ啓示――
「慈悲ふかく慈愛あまねきアッラーの御名において・・・
言え、「お縋り申す、人間の主に、人間の王者、人間の神に。
そっと隠れてささやく者が、ひそひそ声で人の心にささやきかける、
妖霊(ジン)もささやく、人もささやく、そのささやきの悪を逃れて。」

111章「腐ってしまえ」――メッカ啓示――
「慈悲ふかく慈愛あまねきアッラーの御名において・・・
腐ってしまえ、アブー・ラハブの手。ええ、すっかり腐ってしまえ。
家産も役に立つものか、儲けた金も甲斐あるものか。燃える劫火に焼かれるばかり。焚木は女房が背負って来る。頸に荒縄結いつけて。」

101章「戸を叩く音」――メッカ啓示――
「慈悲ふかく慈愛あまねきアッラーの御名において・・・
どんどんと戸を叩く、何事ぞ、戸を叩く。戸を叩く音、そも何事ぞとはなんで知る。人々あたかも飛び散る蛾のごとく散らされる日。山々あたかもむしられた羊毛のごとく成る日。秤が重く下がった者には、いと心地よき生活(天国での生活)があろう。秤軽きはねた者には、底なしの穴(地獄)が母となろう。が、さて、底なしの穴とはそもなんぞやなんで知る。
炎々と燃えさかる火(の穴)の謂い。 

81章「巻きつける」――メッカ啓示――
「慈悲ふかく慈愛あまねきアッラーの御名において・・・
太陽がぐるぐる巻きにされる時、山々が飛び散る時、産み月近い駱駝を見かえる人もなくなる時、野獣ら続々と集い来る時、わたつみふつふつと煮えたぎる時、魂ことごとく組み合わされる時、生埋の嬰児が、なんの罪あって殺された、と訊かれる時、帳簿がさっと開かれる時、天がめりめり剥ぎ取られる時、地獄がかっかと焚かれる時、天国がぐっと近づく時、(その時こそ)どの魂も己が所業の(結末を)知る。誓おう、沈みゆく星々にかけて、走りつつ、ねぐらに還る星々にかけて、しんしんと迫る宵闇にかけて、明けそめる暁の光りにかけて、げに、これぞ貴き使徒の言葉。・・・」

 
世界の終焉と最後の審判の様が迫力ある比喩とともにリズミカルに語られて印象深い。メッカ啓示は短く、人の心を抉るように刻まれるのに対し、メディナ啓示は長く、ときに冗長に旧新約聖書でお馴染みの物語が新たな装いのもとに展開される。キリスト教系の学校出身者であっても、聖書をよく知らないようだが、まして『コーラン』は手にとったことすらない人がほとんどではないか。大学入学前に繙く人は素晴らしいと思う。
 イスラームで神の言葉『コーラン』の次に権威を持つのが、ムハンマドの言行録『ハディース』である。いくつも異なる伝承があるなかで、邦訳のあるブハーリーの『ハディース』を眺めてみると、啓示の様子が克明に語られている。

 
「信徒の母そして神の使徒の妻であるアーイシャによると、かつて、アル・ハーリス・ブン・ヒシャームが神の使徒に「啓示はあなたにどのように下りますか」と尋ねたとき、ムハンマドは「或る時は、耳をつんざく鐘の音のように私に臨み、それはわたしにとって最も苦しいのであるが、やがて途絶えると、わたしは示された言葉をしっかりと心の中につかんでいるのに気づく。また或るときは、天使が人の姿をとって現れてわたしに語りかけ、わたしはその言葉をはっきりと記憶する」と答えた。
また、アーイシャによると、或る厳しい寒さの日、彼に啓示が下るのを見、やがてそれが止むと、その額からは汗が滴り落ちた、という。
信徒達の母アーイシャによると、神の使徒に啓示が下された啓示の始まりは、彼が眠っている間に見た神々しいヴィジョンであり、このヴィジョンを体験するとき、それは常に暁の輝きのようにはっきりと現れた。」」
  (『ハディースI』(牧野信也訳)、岩波文庫、2001年、20-21頁)

  
ムスリム(イスラーム教徒)となるには六信五行が必要であるが、六信の対象は唯一神アッラー、天使、啓典『コーラン』、使徒ムハンマド、天国と地獄の来世、神の摂理に、五行は信仰告白、一日5回の礼拝、喜捨、断食、メッカ巡礼となっている。ここから、天使もメッカも欠かせないことが判る。キリスト教で聖母マリアへの受胎告知を担当した天使ガブリエルは、イスラームでは預言者ムハンマドへの最初の啓示の媒介者となった。現代でも、とりわけカトリック信者には、生まれながらにして守護天使(Schutzengel)に護られているという信仰がある。ソクラテスの場合、行為の禁止命令を折に触れて出すダイモニオンに相当するだろう。
元中世哲学会会長・稲垣良典九州大学名誉教授は、かつて『天使論序説』(講談社学術文庫、1996年)という痛快な本を書いた。京都大学霊長類研究所のように猿を研究し、「人間は所詮、裸の猿に過ぎない」と、人間の価値を貶めるような方向ばかりに進むのではなく、むしろ天使研究センターを創り、「人間には天使に通ずるこれこれの優れた美質が備わっているのだ」と示す方がどれほど建設的であることか、と提言したのだ。現代でも「白衣の天使」だけが実在すると思ったら大間違いなのかもしれない。

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